職場でのインシビリティ(礼儀や尊重を欠いた言動)について解説します。 お役立ちコラム2025.01.15

職場での困りごとの1つとして、いわゆるハラスメントには当たらないものの、その振舞いが周囲の負担になっている「インシビリティ」が問題になってきています。インシビリティとは何か、その問題と解決方法を提案します。
この記事でわかること
- ハラスメントとインシビリティの違い
- インシビリティの具体例
- インシビリティへの対応と解決方法
1.ハラスメントとインシビリティ
職場におけるハラスメントについては、労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止)、男女雇用機会均等法(セクシュアルハラスメント防止)、育児・介護休業法(マタニティハラスメント防止)等法律が整備されてきました。2022年の改正によって、中小企業を含む全企業にパワーハラスメント防止措置を講じる義務が課され、これにより多くの職場でハラスメント防止のための方針が整備され、研修や相談窓口が設けられることになりました。 ハラスメント防止や対策に対する意識は定着してきました。
一方で、ハラスメントとして明確に分類されない行為で、職場で問題となっているものがあります。具体的には以下のような例が挙げられます。
- 挨拶や声かけを無視する
同僚や部下からの挨拶や声かけを意図的に無視する行為です。出勤時の挨拶に返答しなかったり、業務上の質問に対して反応を示さない場合が該当します。
- 業務上の重要な情報を特定の人にだけ共有しない
職場での情報共有において、特定のメンバーに重要な情報を伝えない行為です。会議のスケジュールやプロジェクトの進捗状況を一部の人にだけ知らせず、他のメンバーがその情報を知らないまま業務を進める状況が該当します。
- 相手を茶化したり、皮肉を言ったりすることが繰り返し行われる
同僚や部下に対して、皮肉や冗談を言う行為が度重なることです。他人の意見や提案に対して「また君らしいアイデアだね」と皮肉を込めて返答する場合が該当します。
これらは、ハラスメントには該当しない行為ですが、行為者の振る舞いが周囲の負担になっており、「インシビリティ」として新たに職場での課題として浮上しています。
2.インシビリティの具体例と影響
インシビリティ(incivility)は他者に対する配慮や思いやりを欠いた言動で、ここでは、「職場での無礼な態度や配慮の欠如」を指します。以下はその具体例です。
- 挨拶を無視する: 同僚や部下の挨拶に返事をしない。
- 感謝の言葉を省略する: 他人の貢献に対して何も言わない。
- 会話を遮る: 他人が話している最中に意見を割り込む。
- 重要な情報を共有しない: チームに必要な情報を伝えない。
- 皮肉や冗談を言う:相手を茶化したり皮肉を言ったりする。
いかがでしょうか。例に挙げた行為1つひとつ見ると、一見大したことのない行為に見えるかもしれません。この「1つひとつの行為は一見些細なものに見える」ことは、インシビリティの特徴の1つです。
しかし、程度や頻度によってはインシビリティはハラスメントと同等の影響力を持ちます。
「挨拶を無視する」ことが繰り返し行われれば、無視された側は自分が軽視されていると感じ不安やストレスといった心理的負担が蓄積されます。
「重要な情報を共有しない」ことが続けば、情報を受け取れなかった人は疎外感を感じ、チーム内の信頼関係が損なわれる可能性が出てきます。
このように、インシビリティの行為が度重なることで、被害者側のモチベーションの低下や心理的ストレスに繋がり、最終的には離職に繋がることもあります。また、職場内のコミュニケーションが阻害され、チームの協力関係にも悪影響を及ぼすことで、業務の効率や生産性の低下にも繋がっていきます。
3.インシビリティへの対応と解決方法
職場でのインシビリティを放置すると、生産性の低下や社員のモチベーション喪失、さらには離職率の増加や組織全体の雰囲気の悪化を招く可能性があります。そのため、インシビリティに対する対応と解決方法をしっかりと講じることが必要です。
(1)加害者に対するフィードバックの導入
加害者に対するフィードバックは重要です。ただし、インシビリティの特徴として、「加害者が自分の行動が問題であることを自覚していない場合が多い」ことがあるため、本人にフィードバックする際にはこの点に注意する必要があります。
- 相手の人格や価値観を攻撃するのではなく、行動に焦点を当てる
- 相手の意図を確認する
「どうしてその行動を取ったのか?」と問いかけ、加害者の行動の背景にある意図を確認することで、誤解を防ぎ問題解決の糸口を見つけます。 - 具体例を挙げる
「先日の会議で、Aさんの意見を遮ったことがありました。それがAさんにどう映るか考えたことがありますか?」といった具体例を提示し、行動の改善点を明確化します。 - 相手を責めない表現を使う
「あなたは間違っている」という表現を避け、「私はこう感じた」という視点を用いることで、フィードバックを受け入れやすくします。 - 改善への提案とサポートを提供する
「次回は、相手の意見を最後まで聞いてから自分の意見を述べる方法をためしてみませんか?」といったように、行為を指摘するだけでなく、建設的な改善案を提案し、相手が前向きに行動を変えられるようサポートします。
(2)職場環境の改善
①礼節を重んじる文化の醸成
インシビリティとは、無礼な態度や配慮の欠如であるから、職場全体の文化として、礼節を重視する風土を作ることが不可欠です。そのためには、次のようなことが重要です。
- 挨拶を欠かさない
- 感謝の言葉を頻繁に使う
- 相手の話を丁寧に聞く
- 良好なコミュニケーションの促進
これらは、対応策としても有効ですが、インシビリティの問題を起こさないための「予防策」として前もって講じることが更に大事となってきます。
また、これらを実践するにあたっては、上層部から率先して実践することが鍵となります。「上司から部下に挨拶をする」「上司が先立って感謝を伝える」といった礼儀正しい行動を取り、部下に良い手本を示す必要があります。
②心理的安全性の確保
インシビリティを防ぐためには、従業員が安心して働ける環境を整備することが不可欠です。「意見を述べやすい雰囲気の醸成」をおこなうことや、社内アンケートなどを活用して「匿名の意見収集」を行うこと、「相談窓口を設置」することなどが求められます。
③教育と啓蒙活動
社員向けの教育としては、全社員を対象として「インシビリティに関する認識向上」を内容とする研修の実施を、管理職に向けては「インシビリティを防ぐためのリーダーシップ研修」等を実施します。
また、啓蒙活動としては、「インシビリティゼロ」を目指す会社方針を掲げ、社員に対して具体的な行動規範を示します。
4.過剰な対応とならないために
インシビリティに対処することは重要です。しかし、インシビリティに該当すると思われる行為は、一見些細な行為と見られるものがあることや、加害者が行為に無自覚な場合が多いといった特徴があります。そのため、当該行為を過剰に「インシビリティ」として問題視することで、かえって職場の柔軟性を損ない窮屈な環境を作り出し、社員が委縮するリスクもあります。
そこで、インシビリティの問題に対処するに当たっては、過剰な問題視になっていないかに留意する必要があります。そのためには、「柔軟な対応」が求められます。すなわち、小さな問題だけに捉われずに全体のバランスを考慮しながら対処することが必要です。
また、行為をどのように受け取るかは受け手によって異なるため、その「感覚の違い」についての配慮が必要です。インシビリティとして行為が「無礼」か否かを判断する際は、主観的な基準ではなく客観的な基準を設けて判断しなければなりません。
結論
職場でのインシビリティは、ハラスメントの手前に位置する行為でありながら、組織全体の生産性や従業員の満足度に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、適切な対策を講じることが不可欠です。一方で、過剰な問題視は職場の柔軟性を損ない、窮屈な環境を作り出すリスクもあります。
インシビリティに対応するには、バランスの取れたアプローチが求められます。礼節を重視する職場文化の構築と、社員間の健全なコミュニケーションを促進することが、問題の根本的な解決と予防に繋がります。職場全体で互いを尊重し合う環境を作ることで、インシビリティを最小限に抑え、生産性と心理的安全性の向上を目指すことができます。
最後に
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