シニア世代のキャリアと企業の未来:働く期間の延長をチャンスに変えるために お役立ちコラム2025.03.12

はじめに
かつて、60歳で定年を迎え、第二の人生へと移行するのが一般的でした。しかし、今や「60歳定年」は過去の話となり、実質的な定年が65歳へと引き上げられ、70歳まで働くことも当たり前の時代になりつつあります。
この変化は、単に法律の改正によるものではなく、日本社会の構造変化、経済的事情、個人の価値観の変化が影響しています。長寿化が進み、退職後も20~30年の人生が残る時代、仕事のあり方やキャリアの捉え方を見直す必要があるのです。
しかし、企業側からすると、新たな課題も生じています。「シニア社員の意欲をどう維持し、戦力として活用するか?」 これは、これからの企業経営において避けて通れないテーマです。
本コラムでは、
- なぜ今、働く期間が延びているのか?
- 60歳以上のキャリアの選択肢と、それぞれのメリット・デメリット
- 企業がシニア社員の意欲を高め、組織に貢献してもらうための方法
について解説していきます。
1.働く期間が延びている理由
日本のシニア世代の労働環境は、法律や社会の変化により、大きく変わっています。主な理由として、以下の3つが挙げられます。
① 退職後の経済的不安(個人の事情)
平均寿命が延び、老後の資金不足を懸念する人が増えています。年金だけで生活するのが難しいと考え、できる限り長く働き続けたいと考えるシニア世代が増えています。
② 人手不足と労働力の確保(社会の変化)
少子高齢化により、生産年齢人口(15~64歳)が減少し、企業は慢性的な人手不足に悩んでいます。そのため、経験豊富なシニア社員の活用が不可欠となり、企業側も積極的に雇用を延長する動きが見られます。
③ 法改正による65歳までの雇用確保(政策の変化)
2025年4月から、企業は希望者全員に対し、65歳までの雇用機会を確保することが義務化されます。
具体的には、
- 定年を65歳まで引き上げる
- 定年制を廃止する
- 再雇用制度を導入する
などの対応が求められます。
さらに、政府は70歳までの就業機会確保も推奨しており、今後ますます「シニア世代が長く働く社会」へと移行していくでしょう。
2.60歳以上のキャリアの選択肢
シニア世代の60歳以降のキャリアとして、主に以下の3つのキャリア選択肢があります。それぞれのメリットや課題、意欲を高めるための工夫について解説します。
(1) 企業内での継続雇用
定年後も同じ企業に再雇用されるケースです。
① 継続勤務のメリット
シニア社員が企業に残ることで、経験や人脈を活かせるほか、慣れた環境で働ける安心感があります。仕事を続けることで、収入の安定も得られるため、生活面での不安も軽減されます。
②直面する課題
一方で、給与の減少や役割の限定により、働く意欲が低下するケースも少なくありません。特に、若手との関係性が変わることで、組織内での立ち位置が曖昧になり、孤立するリスクもあります。
③意欲を高めるための工夫
こうした課題を解決し、シニア社員が意欲を持って働き続けるための方法があります。たとえば、新たな役割を与える制度の導入や、スキルアップの支援、柔軟な働き方の整備などが考えられます。これらの具体策については、後ほど詳しく紹介します。
(2) キャリアチェンジ(転職・独立)
新たな業界や職種に転職したり、フリーランスとして独立する選択肢です。
①キャリアチェンジのメリット
60歳を過ぎてから新しい業界や職種に挑戦することで、これまでにない充実感や達成感を得ることができます。今までの経験やスキルを活かしながら、異なる形で社会に貢献できるのも魅力の一つです。また、フリーランスやパートタイムなど、働く時間や場所を柔軟に選べる点も、シニア世代にとって大きなメリットとなります。
②直面する課題
一方で、新しい仕事に適応するまでには時間がかかるため、環境の変化に対する適応力が求められます。特に、未経験分野に飛び込む場合は、安定収入を得るまでのハードルが高いことがネックになることも。また、フリーランスや個人事業として働く場合、健康や体力の維持が仕事の継続に影響を及ぼすため、自己管理がより重要になります。
③成功するためのポイント
キャリアチェンジを成功させるには、50代のうちから準備を進めることが重要です。まず、過去のキャリアを棚卸しし、自分の強みを整理することで、どの分野に移行しやすいかを見極める必要があります。また、資格取得やリスキリング(学び直し)を通じて、新たな業界にスムーズに適応できる準備をしておくことも有効です。さらに、人脈を活用した転職活動を意識し、シニア向けの求人市場をリサーチすることも成功への鍵となります。
④キャリアチェンジの選択肢
キャリアチェンジには、さまざまな選択肢があります。例えば、経験を活かせる分野への転職や、副業・フリーランスとしての活動、またNPOや地域支援、講師業などの社会貢献活動も選択肢の一つです。それぞれの選択肢には特有のメリット・デメリットがあるため、自分の価値観やライフスタイルに合った道を選ぶことが大切です。
(3) 起業・ビジネスの立ち上げ
コンサルタント業、講師業、小規模ビジネスなど、シニア世代の起業も増えています。
①起業のメリット
シニア世代が起業する最大の魅力は、自分の裁量で働ける自由度の高さです。これまでの経験やスキルを最大限に活かしながら、自分のペースでビジネスを展開できるため、仕事のやりがいを強く感じられるでしょう。また、成功すれば高収入を得る可能性がある点も、起業の大きなメリットの一つです。
②直面する課題
しかし、起業には経営リスクが伴い、収益が安定するまで時間がかかるという課題があります。特に、シニア世代の場合、資金面の負担や健康問題が事業継続に影響を及ぼす可能性もあります。そのため、無理な投資や過度な負担を避ける戦略が求められます。
③成功するためのポイント
起業の成功には、リスクを抑えたスタートが不可欠です。最初から大きな投資をせず、小規模・低資本で始め、徐々に拡大していく方針を取ることが望ましいでしょう。また、市場ニーズのリサーチを徹底し、需要のある分野を選ぶことで、持続的にビジネスを成長させることができます。さらに、シニア世代の起業では、長く続けられる収益モデルを作ることが重要です。
④起業の選択肢
起業の形態は多岐にわたります。たとえば、これまでの経験を活かしたコンサルタント・アドバイザー業、カフェや農業、オンラインスクールといった小規模ビジネスの開業、また、ブログ・YouTube・電子書籍販売などのデジタル活用ビジネスも選択肢の一つです。さらに、地域の特性を活かしたシニア向けサービスや観光支援などの地域ビジネスも注目されています。
起業は、大きな可能性を秘めた選択肢ですが、無理のない計画と持続可能なビジネスモデルを構築することが成功のカギとなります。

3.シニア社員の意欲を高め、組織に貢献してもらうために
これまで、シニア社員側からの視点で、今後の選択肢として、「企業に残る」「キャリアチェンジをする」「起業する」という3つの道について紹介してきました。それぞれにメリットや課題があり、どの選択肢を取るかは個人の価値観やライフスタイルに大きく関わります。
一方で、企業に残ることを選んだシニア社員を、企業側がどのように活用し、支援していくかも、組織全体の生産性や活力に直結する重要な課題です。
(1) 現状:企業が直面している課題
定年延長によって、企業におけるシニア社員の就業期間が長くなり、彼らのモチベーションをいかに維持し、戦力として活かすかが重要なテーマになっています。しかし、実際には、次のような課題が浮かび上がっています。
- 役割が曖昧になり、主体的に動く機会が減る
- 組織の変化やデジタル化に適応しにくい
- 若手との関係が希薄になり、職場での存在意義を見失いがち
- 仕事のやりがいを感じにくくなっている
このような状況が続くと、組織全体の生産性や活力が低下し、企業の成長にも悪影響を及ぼします。シニア社員のポテンシャルを最大限に引き出すためには、企業が積極的に意欲を高める施策を講じることが求められます。
(2) 原因分析:なぜシニア社員の意欲が低下するのか?
シニア社員が「やる気を失う」背景には、複数の要因が絡み合っています。
① 役割の不明確さ
シニア社員の多くは、定年前には管理職や専門職としての重要な役割を担っていました。しかし、定年後に継続雇用された際に、責任が軽減される一方で、新たな役割が明確に与えられないと、「自分は会社にとって必要なのか?」という疑念を抱き、モチベーションが低下しがちです。
② 評価・報酬制度のミスマッチ
再雇用後は給与が大幅に下がるケースが多く、「今の仕事に対して適正な評価を受けているのか?」という不満が生じることがあります。また、積極的に働くシニア社員と、最低限の業務しかしない社員の待遇に差がない場合、「頑張る意味がない」と感じてしまうこともあります。
③ 新しいスキルを学ぶ機会の不足
デジタル化が進む中で、ITやDX(デジタルトランスフォーメーション)の知識が求められる場面が増えています。しかし、シニア社員の多くは、そうした新技術を学ぶ機会が少ないため、変化についていけないと感じやすくなります。その結果、仕事に消極的になり、若手社員との関係も希薄になってしまいます。
④ 仕事の目的や意義の喪失
「あと○年いれば定年だから…」という意識が根付き、仕事が単なる時間消化になってしまうケースもあります。やりがいを見出せなくなると、主体的に動く意欲を失い、周囲の活力にも影響を与えることになります。
⑤ 若手との関係性の変化
世代間のギャップが広がることで、「昔のやり方」を押し付けがちになる、あるいは若手がシニア社員に意見しづらくなるといった問題が発生します。その結果、チームの中で浮いてしまい、職場での居場所を見失うことにつながります。
(3) 企業が採るべき対策
企業は、短期的な対策(即効性のある施策)と長期的な対策(持続可能な仕組みづくり)の両方を進める必要があります。
A. 短期的な対策(即効性のある施策)
1️⃣ 役割を明確化し、意義のある業務を提供する
- 「シニア専門職」「メンター制度」「技術伝承アドバイザー」などのポジションを設ける。
- 経験を活かせる業務を再設計し、シニア社員が組織に貢献できる場をつくる。
2️⃣ 評価・報酬制度を見直し、「貢献度」を反映させる
- 業務遂行だけでなく、後輩育成やナレッジ共有なども評価対象にする。
- 成果が可視化されるよう、「シニア社員の活動レポート」を導入する。
3️⃣ スキルアップ機会を提供する
- ITリテラシー研修、AI・DXの活用研修など、時代に合わせたスキルを学ぶ場を提供する。
- 研修を受けるだけでなく、「実践の場」を作り、学びを活かせる機会を増やす。
B. 長期的な対策(持続可能な仕組みづくり)
1️⃣ 「50代からのキャリアデザイン研修」を導入する
- 50代のうちから、60歳以降の働き方を考える機会を提供する。
- 事前に「何を軸に働くか?」を整理し、シニア期に意欲を維持できる準備を整える。
2️⃣ 世代間交流の促進
- 「シニア社員 × 若手社員」の1on1ミーティングを制度化する。
- シニア社員の知識や経験を、若手に引き継ぐ機会を増やす。
3️⃣ 「シニアの働きがい向上制度」を整える
- 社内副業のような形で、複数の仕事を掛け持ちできる仕組みをつくる。
- ボランティア活動や社外プロジェクトにも関与できるようにする。
4️⃣ 役職移行をスムーズにするための「段階的リタイア制度」
- 55歳頃から徐々に業務の負荷を調整し、新しい役割へ移行する制度を作る。
4. まとめ
シニア社員のキャリアは、「企業に残る」「キャリアチェンジをする」「起業する」と多様化しています。どの道を選ぶにせよ、経験やスキルを活かし、充実した仕事人生を送るための準備が不可欠です。企業としては、継続雇用を選んだ社員の役割を明確にし、評価制度やスキル支援を整えることで、彼らの意欲を引き出し、組織の成長につなげることが求められます。シニア社員が「活躍し続ける場」を提供することが、企業の未来を左右する鍵となるでしょう。
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